230330 論理的記述力科研集会 @名工大
「論理的記述に関して読んだこと・考えたこと」
林 篤裕 (名古屋工業大学)
- フランスの教育と哲学教育の持つ意味
- フランスの教育制度
- 義務教育(3歳から16歳) : 2019年に6歳から3歳に引き下げ
- フランスの学校系統図
(https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shougai/015/siryo/attach/1374964.htm)
- 幼稚園(3年): 幼稚園・幼児学級
- 初等教育(5年): 小学校
- 前期中等教育(5年): コレージュ
- 後期中等教育(3年?): リセ(3年?)、職業リセ(2年)
- 高等教育(3〜5年): グランゼコール(3〜5年)、大学(3年?)
- 理念として
- 後期中等教育が教養を身に付ける場、「市民」を育てる場(坂本a=P4等, 坂本b=P179)
- 高等教育が職業と結びついた専門教育を施す場(坂本c=P183)
- 後期中等教育までに行われている教育
- ディセルタシオン(小論文)
- 「思考の型」: 強力なツール、共通のフォーマット
- 導入、展開、結論。正反合 (坂本a=P54, P55)
- 哲学教育の持つ意味: 初等教育、中等教育の総仕上げ(坂本a=P39)
- 「疑問を持ち、真理を探究することへの配慮、分析する能力、思考の自律性」を育てること(坂本a=P40)」
- 「型」を使いこなせるかを評価
- こども哲学(坂本c=P213)
- 「こども哲学」入門[第1回]「こども哲学」とは何か: by 河野哲也
(https://shop.gyosei.jp/library/archives/cat01/0000012914)
- "こどもたち自身が提起する哲学的な問いを、「探究の共同体」というグループを作って、対話しながら考え、考えながら対話していく活動です。"
- 池田f も同趣旨か?
- [私なりの]ディセルタシオンからの示唆
- 偉人の業績や歴史を学ぶことを通しての知識の獲得
- 記述方法の流儀(型と呼んで良いのか)とその強制・矯正
- 思考方法の体験・体得
- 文化的土台
- フランスエリートが獲得している「思考の型」は、日本の受験生に求められているものなのか? ===> おそらく「No」なのでは?
- 坂本先生も、
- 日本もまねるべきだとはまったく考えていません。(坂本a=P234)
- フランスでさえうまくいっていないものを、日本に輸入してうまくいくはずがありません。(坂本a=P234)
- フランス人にとって、哲学教育や「思考の型」は決して理想の思考法ではないのです。(坂本a=P235)
- その「理念」がわれわれにとっては示唆に富んでいるからです。(坂本a=P236)
- 文化に根ざした教育方法=日本への直輸入だけでは実効を上げない
- 本書での言及ではないが、
フランスでの「しつけ」については家庭が責任を持つという文化。
- 哲学だけに許された機能なのか?
- なぜ哲学が重宝されるのか? ひがみ・嫉妬なのかもしれない。
- 「高木l」には、「第4章 データ科学推論」の中で、数学や統計学(データサイエンス?)も取り上げられているのだが。
- 【参考文献】
- 坂本 尚志、
バカロレアの哲学 「思考の型」で自ら考え、書く
- 坂本 尚志、なぜフランスの理系エリートには一般教養が必要なのか? (石井 洋二郎編、リベラルアーツと自然科学)
- 坂本 尚志、哲学教育はなぜ総合学習なのか (伊藤 実歩子編、変動する総合・探究学習)
- 【関連する書籍】
- ジャン=フランソワ・ブラウンスタン、グランゼコールの教科書 フランスのエリートが習得する最高峰の知性
- シャルル・ペパン、フランスの高校生が学んでいる10人の哲学者
- 池田 晶子、14歳からの哲学 考えるための教科書
- 論理思考の方法: 関連がありそうな書籍から
- 2.1.横山 雅彦、高校生のための論理思考トレーニング(横山g)
- 英語弁論の達人からみた、英語と日本語の構造の違い。
- 文化背景として、
- 日本人の心の習慣は、「察し」であり、「ハラ芸」である。(横山g=P19)
- ロジックの英語、ハラ芸の日本語(横山g=P39-, 第2章)
- 言語構造として、英語は論理を記述するのに適している。
- 時系列が明確な英語、状況依存の日本語(横山g=P77)
- a, the の用い方。
- 英語の場合、thisやtheseなど、指示語は原則として「直前」の旧情報を指す。ところが、日本語の「それら」に置き換えた途端に、その指示関係が曖昧になってしまう。(横山g=P83)
- 時系列が明確な英語、状況依存の日本語(横山g=P77)
- 主語の持つ意味
- ロジカルトレーニング(横山g=P95-, 第4章)
- クレーム(claim, 請求)
- クレームは、"How and why?"(どのように、なぜ?)というと問いかけに答える責任(論証責任)を含んでいる。(横山g=P99)
- 論証責任を形作る条件(横山g=P100)
- 相対的な形容詞: too hot, better than, good/bad
- 助動詞: can, may, must, should, will
- think, believe, want, hope, withなど、Iを主語とする「主観」を表わす動詞
- 三角ロジック: 3つが揃って初めてロジックは成立する(横山g=P117)
- 三角形の図: クレーム(claim、論証責任)、データ(data、事実)、ワラント(warrant、データを挙げる根拠)
- クレーム・データ・ワラントの3つのかたまりこそがパラグラフ(横山g=P127)
- (この構造が守られていれば)パラグラフリーディングが可能。
- 日本語は必ずしも意味段落の構造を取っていない(形式段落)ので、理解しづらい。
- 英語は論理的に記述することができる要素を持っている
- 構造が解ってしまうと読み易い(期待通りの構造になっているかの確証はないが)
- 小論文試験で問われていること
- クレームのオリジナリティではなく、論理的に意見を述べ、他人の意見に反対する能力、ひいては西洋由来の学問をする能力である。(横山g=P132)
- 「現代国語」を英語に近いもの順に並べてみる(横山g=P201)
- 翻訳・学術論文
- 自然科学・社会科学の評論
- 文芸書・新書
- 社説
- 手紙
- 国語の教師の多くが、論理的読解の教材として「天声人語」を無批判に使用している(使用せざるを得ない)ところに、現代国語教育の混乱と混迷が如実に表れているように思えてならない。(横山g=P209)
- 「論理は、もともと日本語にはなかった心の習慣である。」(横山g=P213)
- 「日本語はロジカルには運用できない」という認識を出発点とした現代文教育の見直しが必要である。(横山g=P214)
- 「論理思考」という考え方は英語圏から来ている。
- 雑感
- 文書構造が整っていると読み易い。
- 日本語を母語とする日本人だって論理的に議論はできる。
- 言語のせいで諦めるのは筋違い。
- 「本書の目的は、日本語による論理運用トレーニングをすることである。」(横山g=P8)
- 日本の個性とグローバル化の要請の調和を目指している。
- 2.2. 池田 晶子、「知ることより考えること」(池田h)
- 「考えるということは、黙ってひとりで反省する、内省する、思索する、ことを言うのであって...」(池田h=P82)
- 学力はいらない(池田h=P100-102)
- 受験テクニックの非生産性を憂いている。
- 「「本質」には決して立ち入ろうとはしない。」(池田h=P101)
- 「言葉というのは両刃の剣で、人を考えさせると同時に、考えさせなくする機能をも併せもつものである。」(池田h=P102)
- 景気のいい話(池田h=P103-105)
- 「本来的な哲学的思考というのは、いかなる救いも与えるものではない。」(池田h=P104)
- 「哲学と生活とは全然関係ないものである。」(池田h=P105)
- 2.3. 論理思考は「論理力x想像力x知識」で決まる=本書の結論(白木i=P24)
- 「結論1: 思考力として、「論理力」と「想像力」の2つが重要」(白木i=P24)
- 「結論2: 「思考力」だけでなく、「知識の量」を増やすことも重要」(白木i=P25)
- 「目指す姿: 本番と日常の両方で、思考力を発揮できるようになる」(白木i=P26)
- 2.4. ノウハウ本(i〜m)
- 個々の書籍には「もっともらしい」ことが列挙されており、それぞれの事項には同意できる部分も多い。
- が、それらを網羅的に実践することができるのであろうか? 高校生に限らず大人でさえ。
- 結局は各自で努力しながら体得するしかないのではないか?
- 【読んだ本】
- 横山 雅彦、高校生のための論理思考トレーニング
- 池田 晶子、知ることより考えること
- 白木 湊、伝説の「論理思考」講座
- 【眺めた本】
- 吉岡 友治、シカゴ・スタイルに学ぶ論理的に考え、書く技術(吉岡j)
- 外岡 秀俊、「伝わる文章」が書ける作文の技術 名文記者が教える65のコツ
- 高木 敏行、科学的論理思考のレッスン
- 唐木 元、新しい文章力の教室 苦手を得意に変えるナタリー式トレーニング
- 大学入試における小論文試験との関係で考えたこと
- 3.1. 現在実施されている小論文試験の規模
- 【例】2022年度 国公立大 一般入試 小論文出題テーマ一覧 [大学数-課題数]
- 名工大の例
- 小論文試験の概要
- 形式: 文章や図表を提示して、それに対して「要約」や「あなたの考えを述べなさい」。
- 字数: 1000字程度まで
- 試験時間: 1時間程度
- 評価: 「総合的に判定する」
- 3.2. そもそも論として
- 大学は小論文試験に何を求めているのか? 何を評価しているのか?
- 精緻な評価ができるのか? されているのか?
- 評価者は何らかのトレーニングを積んでいるのか? 例えば理工学系の場合。
- 要約したり、「自分の思い・考え」を筋道立てて表明すればそれで良いのではないのか?
- 「論理的」「思考力」を測定しているのか? 文字数的にも時間的にも。「浅い」思考力?
- 大学は高校生に高度な「思考力」を求めているのか?
- 小論文試験は何を苦手とされているのか? 練習不足なだけではないのか?
- 畏怖の念を抱かせているだけではないのか?
- 練習する時間が高校教育の中で取れないスケジュールなのかも。ホント?
- 大学入試で求められている「論理的記述力」とは?
- 「筋の通った文書」、「首尾一貫した文書」もしくは「説明になっている文書」が書けるかを第一目的としているのではないのか?
- 勿論、「筋の通った」の程度が重要ではあるが。
- 3.3. 考えられる方策・対策
- 自分の意志を筋道立てて記述するためには、
- 読書
- 書いてみる(練習)
- 添削
- (望むらくは)「社会に関心を持つ」という心
- 文学作品の鑑賞に対する小論文と、理工系の考えを述べる小論文とを同列に論じて良いのか?
- 3.4. この先にある関心
- 「論理的に思考する」とはどういう行為なのか?
- 「論理的に思考すること」と「教養」の関係
- 教養の教育方法、品の教育方法
- フランスの教育に本科研は何を求めるのか?
- 林の考える思考力の獲得方策: 日頃考えていること
- 当該事項に興味を持つこと
- 観察力、好奇心
- 考えること、考え続ける姿勢
- より思考力の高い人(魅力的な人・賢者)と議論すること=聞くこと、読むこと
- 書くこと、話すこと
- 添削
- 「良質」の手本として
- 読む == 良書
- 書く == 型、添削
- 話す == 賢者との議論
- 聞く == 賢者との議論
- 良質のもの・賢者をどうやって見つける?
===> 観察力であったり、好奇心・行動力であったり、運であったり
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