How to eat grilled fishes: 焼き魚のきれいなさばき方

【事前学習課題】焼き魚のきれいなさばき方懇親会(略称: 焼き魚懇親会)

はじめに
　この度は、「焼き魚のきれいなさばき方懇親会」に興味を持っていただきありがとうございました。本懇親会は某会合で「焼き魚をきれいに食べられるようになりたい!」というご要望をお聞きし、それは是非お応えしなければと企画したものです。
　今回ご参加下さる方の中には、生物をご専門とされている方が居られますので、私なんかが偉そうに講釈するより、専門的見地から解説いただく方が学術的にも高尚になるとは思うのですが、ま、それは実習時にお願いするにして、開催前までに学習しておいていただきたいことをまとめましたので、事前学習課題として、お届けしておきます。お忙しいでしょうが、当日までにご一読いただき、場合によっては自主的に調べて実習に臨んでいただければ、より技術習得が確かなものになるのではないかと考えております。
　なお、今回この文書を書くためにYoutubeで同種の解説ビデオを幾つか観ましたが、およそお薦めできないさばき方を紹介しているものも散見されました。残念なことにそのようなビデオが上位にランクされていたりで、インターネット情報は玉石混交であるということを再認識させられました。独学で習得される場合はご注意いただければと思います。
焼き魚は食べにくい?
　焼き魚を美味しく食べたいと思ってくださる方は、恐らくあの味はお好きなのでしょう。脂の乗った魚を焼いて大根おろしと醤油を添えて食べると、口の中に香ばしさと共に魚肉の美味しさが広がって最高ですよね。特に旬のサンマなんか(ああ、お腹が空いてきた)。
　でも、ちゃんと峻別して口に運ばないと、口の中を小骨にチクチクと刺されたり、骨の残骸が口の中に残ったり、また、内臓の苦味に襲われたりで、美味しさが半減してしまいます。勢い「焼き魚は敬遠気味」ということにも成り兼ねません。ちょっとした工夫で美味しい部分だけを食べられるとすると、そのノウハウを知ってみたいと思いますよね?
さばくために必要な知識とは?
　焼き魚をきれいにさばくのは実はそれほど難しいことではありません。しかし、敬遠されるのも事実。何が両者を分けているのでしょう。それは「ある知識」を知っているかどうかだけにかかっていると思っています (私見)。何だと思いますか? そのキーポイントとなるのは骨なのです。魚の骨格。
　魚の骨格標本を頭に思い浮かべてもらえますか? 何が浮かびます? 頭と尻尾が一番に浮かびますかね。それらをつないでいる背骨も浮かびますか? 広葉樹の葉脈のような形状をしていますね(広葉樹や葉脈が判らない方は各自でお調べください)。この辺りまではだいたい思い浮かびますかね?
　他には? 外部から見えているものとして、そう、ヒレがありますね。これには背ビレ(上部)と胸ビレ(前方左右)、尻ビレ(下部)があります。水をかくために、膜も付いています。
　さ、それ以外に? 何があるかな? ここがキーなのです。もう一つあるでしょ? それは、肋骨(が正式名称かは不明)です。紡錘形に背骨からぶら下がって腹部の内臓を守るように付いている、あれです。人間で言うと肺の周りを取り囲んでいる、あれですよ。内臓と肋骨は頭から3分の2ぐらいのところまで (正確には肛門まで)あり、その後ろにはありませんね。実は、焼き魚を食べる際に、この肋骨の場所と形状を意識できるかが大きな分かれ目だと思っています。
【課題】上記のそれぞれのパーツが、どこにどのように配置されているかを Web等で各自調べてイメージできるようにしておいて下さい。
補足的な知識
　一方、肉の方はどのようなブロックに分割できるかご存知でしょうか? 大きくは4つに分割できると考えてもらえば良いと思います。生魚を「3枚に下ろす」風景はご覧になった方もおられると思いますが、背骨を堺に向こう側とこちら側に分割しますよね。これで2分割です。
　そしてあまり意識されていないかもしれませんが、このそれぞれが背骨の有った位置から上側と下側に分割できます。
　泳いでいた時の姿勢を元に考えれば、背骨の中心から左右方向と上下方向に分割できると思ってもらえば良いでしょう。
　左右方向の分割面には前述の葉脈のような骨が入っています。上下方向の分割面には骨がない魚種(サンマ等)と前半部分だけに小骨がある魚種 (アジ等)があります。
　なお、後々の説明の都合上、4つのブロックに名前を付けておきます。魚を後ろから見て背ビレから反時計回りに<左上>、<左下>、<右下>、<右上>と呼ぶことにします。
サンマをお勧めする理由
　さばくための基礎知識は骨格であることは、上で説明しました。基本的にはこれを知っていれば、ほとんどの焼き魚は上手にさばけます。じゃぁ、どんな魚でも良いのか? いえ、魚の中でも手始めにお勧めする魚種として、サンマを挙げておきます。美味しいという理由以外に、ヒレ類がない (あっても小さくて食べられる)、体型が細いため背骨との分離(身離れ)が容易、肋骨が細いため、分離をミスっても喉に刺さることが少ない等が挙げられると思います。
　ちなみに、私の経験を基に、「さばく」という観点からの食べ易さを分類したものが以下の通りです。
【参考】さばき易さを基準とした焼き魚の分類
1. 一番食べ易い
  - サンマ
2. 切り身で供されるため食べ易い
  - サケ (皮がごついので、背骨側から食べると楽)
  - ブリ (皮がごついので、背骨側から食べると楽)
3. 食べ易いが注意が必要
  - タイ (骨が鋭利で太く、喉に刺さると厄介)
4. その次に食べ易い
  - サバ (背ビレの除去が少し面倒。皮がごつい場合もある。水平方向にも骨がある。)
  - アジ (セイゴという鱗の変形したものが後部に付いている)
  - ヒラメ (肉が薄いため分離し難い)
  - カレイ (肉が薄いため分離し難い)
  - タチウオ (肋骨がか弱い上に長い)
5. やや面倒
  - アユ (背骨がか弱く分離し辛い)
  - マス (背骨がか弱く分離し辛い)
6. 面倒
  - イワシ (前節で説明した骨格以外に、背骨から横方向に生えた骨が多量にある)
どこからさばきはじめるか?
　「骨格の形状」と「内臓の位置」、「身が4分割できること」が判れば、骨と内臓を粉砕しないように注意しながら身だけを分離すれば美味しく食べられます。これらを箸で上手に避けながら分離すれば良いのですが、どこから解体に取り掛かりましょうか? 闇雲に取り掛かると見た目も汚いですし、何より肉と小骨が混ざってしまい非常に食べにくくなります。
　実はこれにはもう「定番の入り口」があるのです。それは「血合い」の部分です。肉の中でも、やや赤みが強い部分があるでしょ。あそこから取り掛かるのが常套手段です。場所はどこだかお判りですかね? 寝かせた魚で言えば「尾根の部分」にあたります。
実際の手順(前半)
　では手順を追って順にさばいていきましょう。焼き魚が供される場合、作法の観点から頭を左にして配膳されます。魚は寝ていますので、 <左上>と<左下>が見えており、<右上>と<右下>は隠れて見えません。
　では、まず血合い部分を糸口に<左上>を分離することを考えましょう。「尾根」に沿って箸を垂直に差し込みながら、胸ビレの辺りから尻尾まで箸を移動させます。尾根の直下には背骨がありますから、箸は背骨に当たってそれ以上深くは差し込めません。頭から尻尾まで綺麗に切れ込みが入ったでしょうか?
　次に取り掛かるのは背中の部分です。皿を180度回転させて背中が手前に来るようにして、背ビレの付け根に箸を入れて皮を破って行きます。この動作も頭から尻尾まで行います。次に、その隙間から背骨の中心に向かって水平に箸を進めていくと、<左上>が分離すると思います。
　もしくは、サンマのような細い魚の場合は、そこまで丁寧にやらなくても、尾根に入れた切れ込みと背ビレの付け根を箸で挟んで持ち上げると、 <左上>が分離すると思います。如何でしょうか?
　同じ要領で、今度は<左下>の分離を試みましょう。再度皿を回転させて腹部が手前になるようにします。今度もまず皮を破り腹部から背骨の中心に向かって水平に箸を進めていくと、<左下>が分離します。ただし、腹部は注意を要します。前述のとおり、ここには内臓とそして肋骨がありますので、これらを破壊しないようにする必要があるため、内臓に差し掛かる前に箸を差し込むのを止める必要があります。ですから、正確に言えば、分離できるのは<左下>の後半部分だけになります。
　なお、サンマに限ってではありますが、別の方法として、腹部を支点に尾根から観音開き状に<左下>を背骨から分離する手もあります。
　最後に、背骨より上側に肉片が残っているようなら、全部取り去っておきましょう。
実際の手順(後半)
　さて、ここまでの作業が完了すると、目の前には、背骨が綺麗にみえていると思います。内臓の位置もよく判るでしょう。そして、背骨の下には<右上>と<右下>があります。さて、この後はどの様に処理しましょうか?
　サンマは背ビレがほとんどないので、すぐに次の作業に取りかかれますが、ヒラメやカレイ、サケのようにヒレが大きな魚種の場合はこの状態でヒレを取り除いておくと後々食べ易くなります。ちなみにヒレの付根にある肉はヒラメやカレイの場合、「エンガワ」と呼ばれる部位になり運動量が大きく筋肉が発達した部分なので美味しいと思います。
　この後の手順には2通りがあるのですが、背骨が比較的しっかりしているサンマやタイの場合は、背骨だけをはぎ取るように背骨と「<右上>と<右下>」の間に水平に箸を差し込みこれらを分離してしまって「背骨と頭部、尻尾だけ」を除去してしまうのが簡単な方法かと思います。
　一方、ヒラメやカレイのように、背骨を分離しづらい魚種の場合は、背骨も含めた身全体を持ち上げ、背骨が下になるようにひっくり返して、最初に<左上>と<左下>を切り出した時と同じ方法を使っても良いでしょう。勿論、この方法でサンマをさばくこともできます。
　如何でしょうか? 背骨と内臓に注意しながら作業をすると意外と簡単に身だけが取り出せることに気付かれたかと思います。
もう一つの美味しく食べるコツ
　焼き魚を美味しく食べるためにはいくつか条件があると思いますが、ここまでで述べてきようにうまく解体できることが大きな条件だと思います。
　そして、もう一つ挙げるとすると、それは「焼きたてを食べる」ことでしょう。ジュージューと音をたてて配膳されてきた焼き魚はなるべく早く食べてしまいましょう。パンも焼きたてが美味しいように、焼き魚も焼きたて・熱いうちが美味しく食べられます。しかも、熱いうちでないと身離れが悪くなってしまい、食べにくくもなってしまいます。冷えた焼き魚は全くお薦めできません。スーパーの調理済みコーナーで売られている焼きサンマが食べ難いのはこうした理由からです。この様な場合は、電子レンジ等で加熱してやると身離れが良くなります。
頭部の肉
　基本的には胴体部分の肉を食べることを考えておられると思いますが、大型の魚になると、頭部にも結構な量の肉があることが判ります。有名なところでは「目の下」でしょう。眼球の下部分にL字型に肉があります (残念ながらサンマは小さすぎて食べられそうもありませんが)。他には脳天部分にも。大型の魚をさばく機会がある場合にはお試しください。

まとめに代えて
　順に述べてきたように、焼き魚を食べるのは決して難しいことではありません。魚の構造である「骨格」を知っていることが大きな武器になると思います。それらを綺麗に分離できるようになれば、いろいろな魚にトライしてみたくなるのではないでしょうか? この文章が皆さんの焼き魚ライフ(?)の一助になれば幸いです。

参考資料(骨格を知るのに便利なサイト)
1. 『透明標本』コレクション　２
2. カイワリの中骨の写真 (「広島お魚ツアー」内の記事)
参考資料(食べ方に関するサイト)
参考資料(各種の魚を知るのに便利なサイト)
1. サンマ
2. サンマ in 市場魚介類図鑑
3. 市場魚介類図鑑
4. カイワリ

【余録1】
　子供の頃から親の食べ方を横で観て、また、食べ方を教えてもらっていたので、今では難なく食べられるようになりました。何事も同じではないかと思いますが、要は経験だと思います。その過程では喉に骨が刺さったことも多々あります。トライアンドエラーでいろいろと試してご覧になることをお薦めします。

【余録2】
　今から15年ほど前のことですが、アメリカの日本料理店でサンマの塩焼きを注文して、食べ終わったところ、ほとんどの店員が私の残飯を見物に来たことがありました。頭部と尻尾、それに背骨が全部つながったままの状態で皿の上に残っているのが珍しかったようです。エヘン、日本男児、このぐらいは朝飯前よ。あ、いや、夕食に注文したんですが。お後がよろしいようで...。

【参考: 開催記録】

01/16/13: 8名魚民西新店
02/19/13: 4名? 山荘暖炉天神店
09/24/13: 10名魚民天神1丁目店
12/04/13: 8名魚民天神1丁目店
12/13/13: 3名みわちゃん

登録日 : 2013年09月, 修正日 : 2013年12月

Atsuhiro Hayashi (hayashi (at) artsci.kyushu-u.ac.jp)

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