学習診断とItem Response Theory

統計モデル解析特論I/II : 第07回 (11/16/21)

 今回は、最近の試験研究を取り巻く話題として 今後注目株である(と勝手に思っている)学習診断、 そして、試験業界でこのところ注目を浴びているIRT(Item Response Theory, 項目反応理論)について紹介し、その後若干の私見を述べる。
  1. 先週のショート課題&アンケートから: 88+5名

  2. 学習診断 (Learning Diagnosis) : 「学習診断とその適用例」 【提示資料
    • スコアリング・レポート (Scoring Report)
    • 試験結果を点数を知らせるだけでなく、不得意点を指摘・指導する。
    • 試験問題の利用目的 : 「評価(選抜)」から「教育」へ
    • Rule Space Method : 一種の分類手法
      • Item, Attribute, Incidence Matrix, Item Response Pattern

  3. Item Response Theory (IRT, 項目反応理論) : 項目応答理論 : Wikipedia
    • 野口裕之先生(名古屋大学名誉教授)の講演資料を利用して説明する : 「CBTとIRTの光と影 -- 高大接続改革の夢か現か幻か --」の一部を使わせていただいて
    • テスト項目(試験問題, Item)や受験者集団に依存せずに受験者の能力を算出することが出来るテスト理論のこと
    • 特徴
      • 能力水準の1次元性(同一尺度): 受験者の能力、Itemの困難度
      • 項目特性曲線: Item Characteristic Curve(ICC, 正答確率)
      • 局所独立の仮定: Item間は無相関
      • 2パラメタの場合: aパラメタ=識別力、bパラメタ=困難度
      • 3パラメタの場合: aパラメタ=識別力、bパラメタ=困難度、cパラメタ=類推
      • CBT(Computer Based Test), CAT(Computer Adaptive Test) の基礎技術(特に後者)
        • Item Pool, Item Bank(膨大な項目群の必要性)

    • 複数回の試験が比較可能になる仕組み: 等化、Equating
      • IRTの適用条件を満たしている
      • 項目パラメータが把握できている <=== 過去の出題履歴から
        • 本番の問題冊子中の一部設問は調査のために掲載されている: 事前調査(プレテスト)

      • [懸念] 事前調査がアジア文化圏で成立するか?


  4. 【最終レポート(Q3)】
       以下の事項について、レポートを作成し、Moodleから提出下さい。

    • A.【選択項目】
       この講義「統計モデル解析特論Ⅰ」の7回の受講を踏まえた上で、 以下の5つの項目から一つ以上を選んで自分の意見を論述せよ。
      1. 生活の中で目にする統計に対してどう接すると良いかを論じよ。
      2. 統計学の必要性について論じよ。
      3. 「統計の教育」はいつ、どこで、誰が行うべきなのかについて論じよ。
      4. 受験生側から見た、大学入試の必要要件や理想的な大学入試について論じよ。
      5. 「論理的思考力」を身に付ける方法や学校での教育方法について論じよ。
      6. (上記と同程度のテーマを自分で設定して論じてもかまわない)

    • B.【必須項目】
       本講義を受講することによって「統計」に抱くイメージが 変化したかを述べよ。変化した場合 or しない場合の各々で、講義を聞き終えた現状でどのように感じているか、 また今後自分として統計に対してどのように取り組みたい/取り組みたくないかを説明せよ。

    • C.【任意項目(コメントがあれば嬉しいな)】 講義方法、講義の進め方
       リモート講義で不便も多かったのではないかと想像しています。講義内容の感想だけでなく、リモートでの講義受講で気になった点や感想、改善希望点をお聞かせください。

    • 【期日】12月7日(火) 朝まで (それ以降は受け付けなくなるので要注意)

    • 【提出について】単位取得を考えている者は期日までに提出すること。

  5. 11月30日(火): レポート作成に充ててください。
    • 講義は行わないことにします。
    • 講義内容全般に関して、ご質問があれば対面で対応しようと考えています。 これまで同様に、講義時間帯は研究室に待機していますので、 ご質問のある方は、お越しください。11号館 5階 516室。
    • 他の日程でも対応しますので、その際は事前に日程を相談の上、研究室をお訪ねください。

  6. Q4に向けて
     以前からお知らせしている通り、Q4では統計ソフトウェア「 SAS OnDemand for Academics 」を使った統計解析の実践を行おうと考えています。 これはSAS(という名称の統計ソフトウェア)のサーバーにインターネットを通じて接続し、 ご自身のパソコンを端末として機能させて利用するものです。 よって、手元のパソコンの能力には依存せずに利用することができます。
     なお、本講義はパソコンの操作が伴うため、(少なくとも導入部分の数回は)対面授業が好ましいと考えています(導入につまずくと以後付いて来られなくなる可能性が高いため)。ただし、初回(12/07)はリモート講義で行いますが、各自のパソコンで作業をしてもらう事項を指示する予定です。
     受講希望人数を把握したいと思いますので、 受講を希望される方は、「統計モデル解析特論Ⅱ」のコース内に設置した 受講希望聴取に関するアンケートに期日(12月6日昼)までに回答ください。

  7. Q3を終えるにあたって
      リモート講義ということで、毎回薄氷を踏む思いでした。 何とかここまで辿り着けたという気持ちですが、まずはお付き合い下さり、 ありがとうございました。
     この講義を通して、「データとの接し方」や「統計の考え方」が多少なりとも理解できたであろうか? 大量の数値群から内在する構造を見つけることが「解析」であり「統計の面白味」でもあると思う。 そのためには、理論や目的を知っている必要があるのは勿論だが、対象とするデータの背景を知っておくことや、 統計ソフトを"道具"として使いこなす必要もあろう。
     多変量解析と呼ばれる統計手法の幾つかについては、数式自身よりもその手法の考え方や利用目的に重点を置いて説明したつもりである。
     加えて統計学から見る大学入試にまつわる話題も織り込んでみた。
     今後、新聞や雑誌と言った生活では勿論のこと、研究やいろいろな場面で、種々の数値列に出会うことになると思うが、提示された数値にはどの様な意味(と意図)があり、どう理解して、個々人としてどうアクションを起すかの、判断の道具立ての一つとして統計学を活用してもらえれば幸いである。
     なお、今後、もし統計に関して何か疑問に出会い、私に相談してみたいと思った際は、遠慮無くご連絡下さい。
     皆さんの期待にどこまで応えられたか心許無い部分もありますが、7回(+1回)の講義、お付き合いくださり、どうもありがとうございました。お疲れさまでした。