分類学会巻頭言 国際分類学会連合の会計担当を終えて 林 篤裕 1997年から 2001年にかけて、国際分類学会連合(International Federation of Classification Society, IFCS) の会計を担当させてもらった。ニュース レターの先頭に掲載する内容としてふさわしいかは甚だ疑問だが、学会運営と 言う側面から今回の私の経験を書かせてもらうことにする。 突然の電話から始まった。1996年も押し迫った夕刻、所用に間に合うように と研究室を片付けている最中に、それは林知己夫先生からであった。何でも IFCS の会計(Treasurer)を引き受けるようにとのこと。同じ年の 3月に IFCS-96 を神戸で開催したことの手伝いをさせていただいていたので、この団 体の概要は解っていたものの、会議開催のお手伝いと、国際学会事務局のお手 伝いとでは明らかに濃度が異なるだけに、私には荷が重すぎるどころではなく 背負えないと感じ、何とか再考してもらうようにお願いしたのだが、聞き入れ てもらえず結局、年が明けた 1月にお受けすることにした。ちなみにこの 1月 中旬に行われた大学入試センター試験は、私にとってセンター着任後始めて迎 えた試験であったのだが、現役生と浪人生で平均点差が開いた教科があったた めに、以後「へいく入試(平成9年度入試)」と言うニックネームで呼ばれるこ とになるちょっとやっかいな入試でもあった。このようなダブルパンチで、大 変なところへ来てしまったなぁと感じたように記憶している。 まずは、前任の Jacqueline J. Meulman 先生(オランダ)と連絡を取り、相 談の結果、米ドルで管理することにし、そのための外貨預金口座を安全そうな ある都市銀行に開設した。5月には送金があり、前後して会計書類もドサッと 送ってこられて、私の担当がスタートした。会計の主な仕事は、傘下学会(任 期終了時点で 12団体)から年会費を徴収することと、会計報告書を作成し、 Council Meeting で説明すること、そして、学会賞副賞に関する準備と配布で ある。 連絡はほとんど電子メールで行われるが、日頃、英語のメールなどというも のを書き付けていなかったので、最初はいろいろと悩み、「外人はどうしてこ うも理解し難い文体で書くのか」と不思議にも感じたが、そのうちに「意図が 間違えられずに伝えられればそれで良いや」と半分開き直って書くようになっ た頃から、気楽に連絡を取り合えるようになったと思う。 任期後のことも考え、自分の行った作業内容が他人にも振り返り易いように 時系列的に記録に残すようにし、また、会計報告書の TeX フォーマットを作 成したり、一般会計用と学会賞用に口座を分割する(それまでは 1つで管理し ていた)等、後任の方が理解しやすいように心掛けたつもりである。なお、次 期の Tae Rim Lee 先生(韓国)には、紙媒体だけではなく、電子媒体も含めて 送付し、2001年夏の ISI 会場で最終的な引き継ぎを行い、私の手を離れていっ た。 2回の Council Meeting (98年 Rome, 00年 Namur)に参加して感じたことは、 事前調整を全く行わないことがままあることである。Secretary が事前に準備 した式次第があるのだが、初耳の事項もその場で提案されるので、そのたびに 議論が白熱することも少なからずあった。日本的な「根回し」が良いとは言わ ないが、状況の相互理解なしに重い議題が進むわけがないのも事実で、その多 くが継続審議になってしまったことからすると、「根回し技術」を輸出しても 良さそうにも感じた。 また、学会賞賞金の持参についても困った。「副賞は現金であるべき」と言 う考えも解らないではないが、しかし、会計としては不案内な国に多額の現金 を携行して訪問する必要が生じるわけで事故に遭遇したらどうなるのだろうと ふと頭をよぎることもあった。受賞者も副賞をそのままホテル等の支払いに充 てるようなことはないであろうから、この面でも危険が伴うわけで、国内学会 ならいざ知らず、国際学会の副賞は、銀行間送金か小切手が導入されることを 願っている。 その他には、事務局の一員として活動していて、学会の運営には核になる複 数の人材が必要であることも再認識した。各学会代表委員が熱心なのは勿論だ が、Hans-Hermann Bock 先生(ドイツ)は連合設立時からいろいろなルール作り と運営に尽力されている姿が印象的であったし、Secretary の David Banks 先生(アメリカ)は、滅茶苦茶陽気で、しかも事務能力にも長けていて活動的で、 相棒(と言うと失礼なのだが)として、大いに助けてもらった。 辛いこともなくはなかったが、楽しかったことがはるかに上回っていた。世 界の著名な先生方と知り合える機会になったことは大いに収穫であった。特筆 すべきは、Rome の Council Meeting 後の夕食会で、コロセウム近くの家屋の 屋上から、少し暖かい風に吹かれながら眺める360度のパノラマはそれはすば らしく、紅に染まった空の中を赤い真ん丸の太陽が静かに Rome の市街地に落 ちていく情景は深く印象に残っている。 約 5年間を振り返って、それぞれの場面が走馬灯のようによみがえってくる。 その間、多くの方のご支援とご協力をいただいた。上記に挙げた先生方以外に も、日本分類学会の代表委員であった大隅昇先生には書類の作り方等いろいろ と相談に乗っていただいた。また、98年は私が在外研究員として 10ヶ月間、 アメリカとスイスに滞在していたのだが、その間職場に届く各種書類の整理や 銀行業務の遂行に対して事務補佐員の方々の協力が有ったことも記しておきた い。そして何より、このようなチャンスを与えてくださった林知己夫先生にお 礼を述べないではいられない。ご協力いただいた多くの方々に感謝の意を表す ると共に、今回の経験を国内外での学会活動の一助としたいと思う。どうもあ りがとうございました。 (大学入試センター 研究開発部 助教授)