●インターネット接続記 林 篤裕 阪神・淡路大震災から1年以上を経過した神戸は、表通りを歩く限り惨状の つめ後もほとんど感じられず、以前のような坂と港の異人館情緒を漂わせた街 に戻っていた。このような中で本年3月に行われた第5回国際分類学会議は各国 から多数の参加者を迎えて盛大に開催された。会議自体の報告は他に譲るとし て、ここでは私の担当させていただいたコンピュータデモンストレーションと インターネット関連についての報告を行う。 海外の学会に参加した際にコンピュータルームを解放してくれていたところ があり、参加者は自由にパソコンを利用することができた。自分が開発したソ フトウエアをデモする参加者もいたが、パソコンがネットワークに接続されて いたこともあり、多くはインターネットへのアクセスに利用されていた。私も 電子メールの送受信に利用させてもらい、多いに重宝した。このような経験か ら、今後、国際学会を開催するのならインターネットを利用できる環境を整え ておくのが一つのスタンダードになるのではないかと考えるようになった。そ のような折に、ifcs-96 の準備委員会があり、このことを提案したところ、係 を仰せつかることになった。とは言え、私はネットワークについて素人なので、 多くの方の御協力を得ながら準備を進めることになった。ここでは、どの様な 点に注意しながら準備したかを時間経過を含めてまとめることにする。 1)会場の設備 まずは、どの様な設備やレイアウトの中で開催されるのかを把握するために、 開催4ヵ月前(11月下旬)に会場となる神戸国際会議場を下見した。大小の会議 場が4フロアーに配置されているこの施設は、設計時には計算機やネットワー クの利用に配慮されていなかったので、現在改造計画が進んでいるところであっ た。しかし、その進捗状況から判断すると3月に間に合うかは微妙であった。 特に、コンピュータの利用には、ある程度の電力が必要になるが、会議場と して準備されている現状の電源容量では全く不足することが判った。そこで、 1セット(パソコン本体とCRT)当たり1KW程度を見積もって、期間中増設しても らうことにした。なお、プリンターは電力を必要とするので基本的には配置し ないことにした。 コンピュータデモンストレーション用のブースは、パソコンの設置以外に、 ポスターの掲示やパンフレットの配布も行うので、広めの机2つとパネルを用 意した。 2)インターネットへの接続方法 下見の時に同席してくれたNTTの担当者に聞いたところ、インターネットに 関するサービスは回線のレンタルだけで、どこに接続するか等の手配は全て我々 で用意しないといけないことが判った。ただ、64KBまでの回線であれば大がか りな工事無しで会場まで引けることも判った。 学会や各種展示会で短期に限定したネットワークの接続を提供している業者 があるのではないかと想像し、いくつかあたってみたが芳しい回答は得られな かった。また、神戸近郊の大学関係者に接続先を提供してくれそうな所を探し てもらったが、こちらも見つけることは出来なかった。 他には、会議場を管理運営している神戸国際交流協会に回線の借用を打診し たり、自分の研究室で運用しているモデムに接続するという方法等も考えたが、 後者は電話代が相当必要だろうと言うことが予想された。そこで、Nifty(パソ コン通信の一つ)が提供しているPPP接続を使って回線を確保することにした。 神戸市内に14400bps のアクセスポイントがあるので、電話代は市内料金で済 み好都合である。ただ、Niftyの課金をどの様に清算するかを検討する必要が あった。試験的に接続してみてメール等の送受信には使えるところまで確認し、 電話回線も手配した。 ところが、会議が後2週間と迫った3月11日になって、学術情報センター (SINET)の内田氏より「神戸大学との接続を手伝ってもよい」旨のお申し出を、 統計数理研究所の丸山先生経由で頂いた。加えてありがたいことに、接続に必 要な機材はお二人からお貸しいただけるとのことであった。しかし、これらを 運用するにはINS64の回線を確保することが条件であった。この回線をひくに は3週間は余裕が欲しいと事前にNTTから言われていたので、非常に不安であっ たが、担当者の献身的な御理解により、何とか回線を用意してもらえる目処が たった。 3)計算機の手配 コンピュータデモンストレーション用にパソコンを持ち込むことも考えたが 台数や機種をそろえる事が困難なので、レンタルすることにした。いくつかの 業者に問い合わせて条件の良い所に決めた。年明け頃から具体的な折衝に入り、 DOS/V とMacintos h を合わせて10台程度借りるように準備を進めていた。ま た、英語版のOS も用意しようと考えたが、業者が取り扱っていなかったので、 英語版は用意できない旨をデモンストレーション申込者に案内しておいた。 ただ、非常に困ったのは、使用機種・OSやキャンセルを連絡してこない一部 の参加者がいる事であった。そのために最後まで台数が決定できなかった。 また、インターネット用には、Windows95 を搭載したDOS/V パソコンを使う 事にした。Windows95 がネットワーク関係のツールをデフォルトで持っており、 別途ソフトウェアを用意する必要がなかった事と、フリーウェアが用意しやす かったからである。 前項で書いたように、直前になって急拠インターネットの接続が可能になっ たのでそのための機材として、ワークステーションを追加した。しかし、この マシンは事前に調整をしていなかったので、在庫の確認から手配まで期日に間 に合うか不安であった。しかしこちらも、運良くリクエストした機種を用意し てもらえる事になった。なお、ワークステーションについては、ソフトウェア の設定を行ってもらう必要があったので、事前に借り出して丸山先生に送り、 設定後神戸に送ってもらった。 4)セッティング 会議の始まる前日に計算機の設営を行った。コンピュータデモンストレーショ ンについては、デモンストレーターの割り当て表を作り、該当機種をブースに 設置した。 インターネット用のワークステーションとパソコン(2セット)は、参加者の 利便性を考えて受け付け横の一角に設置した。SINETからお借りしたインター ネット用の機材とワークステーションは丸山先生の所で接続テスト済みであっ た。また、接続手順の丁寧な解説書を書いていただいていたので、これに従っ て注意深く接続した。間違いがない事を確認後、電源をいれると、危惧に反し てあっさりとインターネットに接続できた。何らかの障害が発生する事も覚悟 していただけに、拍子抜けすると同時に非常にうれしかった。 5)会期中 日本語OSであったのでいささか不安であったが、デモンストレーターから不 具合が報告される事はなかった。ただ、事前に申し出のなかったアプリケーショ ンソフトウェアが要ると当日になって言われて手配するのに苦慮した。デモン ストレーション会場の横にセッション会場が配置されていたので、見学者も適 度に入っていた。 インタネットの方は、合計3台の計算機がほぼ休む事なく利用されていた。 ほとんどはメールの送受信に使われていたが、自分のWebページを開いて他の 研究者に説明する光景も見られた。特にセッション間の休み時間には待ち行列 ができる程の盛況ぶりで準備をさせてもらった者の一人として嬉しい限りであっ た。また、持参したファイルが壊れてしまい困っていたデモンストレーターが、 自国の計算機から不足分をft pで取り直して事なきを得た例もあった。これな どは、ネットワークを実感した出来事であった。 今回の一連の準備と運営を通じて、インターネットが広く普及し、研究者に はなくてはならない道具になっている事を感じると共に、今後、どのような集 会を開催する場合でもインターネットへの配慮が必要である事を認識した。 以上、一時はどうなることかと思った計算機まわりの整備だったが、関係者 の皆さんの多大な御協力により、何とか乗り切る事ができホッとしている。繰 り返しになるが、内田氏と丸山先生にはネットワークの運用面から機材の貸し 出し、設定まで緻密で多大な協力を頂いた。また、NTTやレンタル会社の機転 の効く対応にも多いに助けられた。何も判らない手探りの状態から始めて、最 後には待ち遠しそうに計算機が空くのを待つ利用者の列を見る事が出来て非常 に満足している。改めて、関係各位に感謝の意を表しこの報告を終わることに する。どうもありがとうございました。