https://www.yomiuri.co.jp/culture/20210616-OYT8T50125/ 高校国語 細分化に懸念…新学習指導要領 来年度から 2021/06/17 05:00  2022年度実施の新学習指導要領で、高校の国語教科書が大きく変わる。総合的に国語を学ぶ従来の教科書を「論理的・実用的」「文学的」といった観点で分け、科目を細分化したからだ。その区分けには、文学の世界からは疑問の声も上がった。今春公表され、主に1年生が使う「現代の国語」の教科書は、実社会で使える国語の習得を目指すもの。その内容を中心に、高校国語の変化を伝える。(文化部 右田和孝) 実用性重視 文学を読む機会減少の恐れ 三省堂の「現代の国語」と「言語文化」の教科書。それぞれ、構成などが違う2種類がある  1年生の国語は、従来の「国語総合」が、「論理的な文章」や「実用的な文章」を学ぶ「現代の国語」と、古典や小説、詩歌などの「文学的な文章」を収める「言語文化」に分けられた。  「現代の国語」では、法律や条令の文書や図書館の利用法など、実用的な内容の文章を盛り込む教科書も多く、三省堂版では、山崎正和「水の東西」のような定番の評論や、作家の川上未映子さんの読書論なども掲載。「マイクロディベートをやってみよう」といった項目や、政府の委員会の提言を活用して小論文を書く課題なども並ぶ。  同社担当者は「今までのように、文章に何が書かれているかを読み取るより、著者が自分の考えを主張する際、どんな叙述や構成を用いたかを理解できるようにした。生徒が人に何かを伝える時に役立つと思う」と話す。一方、同社の「言語文化」の教科書には、「万葉集」「竹取物語」といった古典や漢文に加え、芥川龍之介の小説や角田光代さんら現代作家の作品、詩や短歌、俳句もある。  今回の再編では、主に2年生以降でより細分化され、「論理国語」「文学国語」「古典探究」「国語表現」から選択する。各教科書の検定は今年度行われ、「論理国語」は評論や学術論文、報道記事などを、「文学国語」は小説、詩歌、随筆などを教材に使うことを想定。「国語表現」は小論文などを含む。  ただ、大学受験に有利との理由から、「論理国語」と「古典探究」の選択が増えるとみられ、「文学国語」はあまり選択されないのではないか、とする指摘もある。となれば、現在2〜3年生が使う国語教科書に掲載されている夏目漱石の「こころ」や森鴎外の「舞姫」といった、豊かな日本文学に触れる機会が減ってしまう可能性がある。  これらの変更について、日本大学の 紅野こうの 謙介教授(日本近代文学)は、「国語で『実用性』が増すのは悪いことではない。しかし、内容の深い文章を読むことを通して、生徒たちに自身を見つめ、考えさせるような営みが抜け落ちているように見える。効率性を優先させ、迷ったり、間違ったりすることで得られる学びの重要な一面を切り捨てるような教科書になっていないか」と語る。 「心を育てる 教科書は宝箱」  国語を学ぶことは、高校生にとってどんな意味があるのか。高校の国語教員だった経験もある中島国彦・早稲田大名誉教授=写真=(日本近代文学)はこう語る。  「10代後半は、人間の感性や物の見方、感じ方が最も飛躍する時期。国語の教科書を通して文学作品を読むことで、様々な価値観や世界観を知り、感性を育むことができる」 さらに、「言葉の実用性に着目したことは、悪いことではない」としたうえで、「言葉は、『道具』や表現する『手段』でもあるけれど、時には『通じない』ものでもあることを知ってほしい。教科書はその手助けになる」と強調する。  中島さんは、今月刊行された『教科書と近代文学』(秀明大学出版会)に執筆者の一人として参加した。教科書で定番とされる文学作品が書かれた背景などを、豊富な資料から解き明かしていく一冊だ。「社会に出た時に自分を支えてくれる言葉に出会うこともある。教科書は人間の心を育てる宝箱だと思う」と語った。